●北杜夫
佐々木侃司氏の繪を知ったのは、私の無名時代、珍しく或る小冊子に随筆を頼まれ、たまたまそのカットが氏のものであった。機知があって、かつほのぼのとしたもので、こちらの文章より上等であった。そこで、のちに、「どくとるマンボウ航海記」を出すときカットをお願いした。そのカットが大変好評で、マンボウ・シリーズなんて読物が未だに存在するのは、佐々木氏の繪のせいでもある。私の手許にくる読者のハガキにも、よく氏のカットを模した繪が描かれてあったりする。しかし、氏はまだもっと個性的な、鮮新な手法をいろいろと試みており、いわばこれが氏の本気の仕事であることは、今回の個展を御覧になれば理解できるであろう。芸術がおわかりにならぬ方には、たとえばピカソを今更買えというのは無理としても、佐々木氏の作品を床下に隠しておけば、下手な株より愉しみがあるとでも申しておこう。
※「〜或る小冊子〜」とは、無論、サントリーの「洋酒天国」であります。


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